蘆花・下子の文書置き場

言葉を通じた知の獲得は、決して起こり得ないだろう。

2016 年 3 月のとある手紙

○○○ さま

 お終いです。

 僕は貴女に逢えて嬉しかったし、貴女の中に僕が童貞を失った頃の女の人の面影を得るようで、心身ともに満たされようとしたがっていました。

 それも、もう終わりです。まず、貴女に拒絶されるのが辛い。貴女に嫌な想いを向けられることが怖くて怖くて仕方がない。貴女の生理的嫌悪の対象になってしまった事は僕の胃の中を幾度に渡って抉り、溜息を生み、最早貴女を好きにならなければ良かった、またはそもそも精巣を持って生まれてきてしまった事自体への恨みを充満させるものでした。

 それでも好きなのですから仕方がありません。恐らく貴女に次に会う事があれば強姦するかもしれません。貴女がどれだけ拒否しようとも、貴女が最後の最後に笑ってくれる可能性をほんの僅かだけ信じて貴女に手を掛けようと思います。僕には些か煩わしい身辺整理の機会と、貴女の心身以外には失う物など一つもないのです。貴女を襲って、それで貴女が最後に笑ってくれなければ、もう人生が失敗だったという結論しか残らない、ただそれだけの事です。

 今までの貴女も、最近の僕も、どうも生きるには少し辛すぎたようです。僕は理解していますよ、僕に襲われるということがどれだけ可哀想で、無残で、汚らしくて、不名誉で、そのくせ世間話にもならない仕様のないものであることを.本当に可哀想に.貴女の意志がもう少し固まっていたなら天国にご一緒したかった.

 貴女の心を頂き、貴女と付き合いをし、貴女と特に口実を持たずとも無条件に会い、貴女と体を重ね、貴女の首を縄に誘う、そんな権利を許された人がかつて居た.けれど僕はほぼ永久的にそれに値しないという事を察せられた時の絶望は、酷く陰鬱で灰色の泥沼だらけの世界を作り出すのに充分でした.

 全く、自己愛だけはどうしようもありませんね.適合欲をそもそも持ち得ないさんはこの辺で終焉を迎えるようです.でも誤解しないで下さい、本当は心の奥底で貴女の幸せを祈っています.的確にお呪い申し上げようと思います.

桜木下子